植物炭化物が土壌腐植酸中の蛍光成分の給源となっているか否かを検討するため、実験室内で調製したススキ炭化物および野焼き跡地で採取した植物炭化物から酸化処理後に抽出した腐植酸をセファデツクスゲルクロマトグラフィーにより蛍光画分と腐植画分に分画し、3次元蛍光スペクトルを測定したところ、蛍光画分の蛍光強度は腐植画分と比べて高く、土壌腐植酸の蛍光画分と類似した蛍光特性を示した。さらに、土壌試料から炭化物を分離するとともに、腐植酸を抽出してサイズ排除クロマトグラフィーにより蛍光成分の量を推定し、土壌の炭化物量と腐植酸中の蛍光成分量との関係を検討したところ、炭化物が多い黒ボク土および褐色森林土の腐植酸で蛍光成分の量が多く、炭化物の少ない沖積土で蛍光成分が少ないことが認められた。同時に、植物遺体の分解過程において蛍光成分が生成するかどうかを検討するため、土壌に植物遺体を添加して培養し、抽出した腐植酸をサイズ排除クロマトグラフィーにかけるとともに3次元蛍光スペクトルの測定を行ったが、新たな腐植酸蛍光成分の生成は認められなかった。以上のことから、土壌腐植酸の蛍光成分は、植物遺体の腐植化過程では生成せず、植物炭化物がその給源となっていると考えられた。さらに、蛍光成分のサイズ排除クロマトグラムが土壌生成環境を解析する際のフィンガープリンティングとして利用できるかどうかを検討するため、土壌タイプの異なる各種の土壌試料から抽出した腐植酸についてサイズ排除クロマトグラフィーを行ったところ、黒ボク土、褐色森林土、沖積土では明らかに異なる溶離パターンを示し、土壌腐植酸の蛍光成分の組成が土壌生成環境により異なることが判明した。したがって、蛍光成分のサイズ排除クロマトグラムは土壌生成環境を解析する際のフィンガープリンティングとして利用可能であると考えられた。
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