研究概要 |
膜蛋白質の大量生産は一般に非常に困難であり、それが、構造や機能の解析、さらにはそれに基づく蛋白質工学的機能改変などの障害となってきた。本研究では、高度好塩古細菌の蛋白質膜透過装置を明らかにするとともに、装置を構成する各種因子を遺伝子工学的手法で増強することにより、高度好塩古細菌を宿主とした膜蛋白質の大量生産系構築を目指す。高度好塩古細菌Haloferax volcaniiの蛋白質膜透過装置を構成するSecY、SecEの遺伝子を単離し、真核生物・真正細菌由来のホモログと構造を比較した。secYの塩基配列から推定される蛋白質は489アミノ酸残基からなり、推定分子量は52,322であった。10回の膜貫通領域を持つと推定され、一次構造は、真正細菌のものよりも真核生物のものと相同性が高いことが明らかとなった。一方、SecEは、57アミノ酸残基からなり、分子量6,195と推定された。SecEの一次構造も、SecYの場合と同様、真正細菌のものよりも、真核生物のものと相同性が高いことが明らかとなった。SecYのN末端およびC末端アミノ酸15残基に対応するペプチドをそれぞれ合成し、これに対する抗血清を調製した。ペプチド結合カラムによるアフィニティー精製を行ったところ、SecYに対して高い特異性を持つ抗体を得ることができた。この抗体によってII.volcaniiの膜両分から、SecYを沈降できることが確認された。共沈実験を行うことで、蛋白質膜透過装置を構成する他の因子が明らかになると期待される。古細菌は、真核生物・真正細菌と共に生物界を構成する3つのドメインの1つであるが、その蛋白質膜透過装置に関する知見はほとんど得られておらず、本研究によって基礎的にも意義深い知見が得られると期待される。
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