研究概要 |
魚類の耳石は内耳小嚢中に形成されるあられ石でできた炭酸カルシウム結晶であり,骨や鱗がリン酸カルシウムでできているのと対照的である。耳石は感覚網の上に耳石膜を介して接触しており,姿勢制御を司っている。この耳石の形成にはそれに微量に含まれている有機基質が重要な役割を果たしていると考えられてきた。われわれは,サケ科魚類のニジマスおよびシロサケの耳石を材料にして,これまでに2種類のEDTA可溶性タンパク質の存在を確認し,そのうちの1つについては部分アミノ酸配列を基にcDNAをクローニングし,その塩基配列から全アミノ酸配列を推定した。その結果,このタンパク質は344アミノ酸残基からなり,ヒトのメラノトランスフェリンのC末端側約半分と40%の配列の相同性があることがわかった。また,グリコシダーゼ消化の結果,分子量が小さくなることから糖鎖を含むことがわかり,アミノ酸配列上にもN結合糖鎖の共通配列が3ヵ所存在するから,これらの一部または全部に糖鎖が付加していることが推定された。したがって,この物質は糖タンパク質である。一方,EDTA不溶性画分を界面活性剤を用いて可溶化したところ,SDS-PAGE上で100kDa付近に主要な1本のバンドが認められた。このバンドはCBB染色,PAS染色に共に陽性であることからやはり糖タンパク質と考えられた。PVDF膜にブロッティングし,直接配列解析を行ったが,明確な結果は得られなかった。そこで,電気泳動のゲル内でトリプシン消化し,断片を逆相HPLCで分離精製した。そのうちの主要断片から単一配列が得られ,この情報を基にプライマーを設計し,3′RACE法によりcDNA断片をクローニングしているところである。
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