栄養素の一つである脂質の免疫系におよぼす影響をモデルに免疫神経内分泌系への栄養素の影響を調べることを試みた。7種類の油脂(魚油、大豆油、サフラワー油、オリーブ油、パーム油、シソ油、ラード等)を含む食餌でマウスを30日間飼育した。その結果、n-3系高度不飽和脂肪酸を多く含む魚油の摂取により、赤血球膜構成リン脂質(ホスファチジルコリンおよびホスファチジルエタノールアミン)の過酸化の亢進と共に、免疫系が影響を受けた。すなわち魚油摂取により脾臓細胞数が有意に増加し(脾臓細胞のサブセットの比率は変化なし)、脾臓細胞のレクチン応答が低下した一方で、腹腔内マクロファージの活性酸素産生量が増加した。この時、脾臓細胞のプロスタグランジンE2産生量は魚油摂取により低下した。また、抗酸化ビタミンとして知られるα-トコフェロールの食餌中の含量を増加させることにより魚油摂取による免疫系の変動の改善を試みた。その結果、血清中の脂質過酸化の亢進は抑制されたが、赤血球膜構成リン脂質過酸化の亢進およびレクチン応答の低下を防ぐことはできなかった。これらの結果は、n-3系高度不飽和脂肪酸の過剰摂取が免疫系に影響をおよぼすこと、α-トコフェロールが生体内でn-3系高度不飽和脂肪酸の過剰摂取による過酸化の亢進およびそれに伴う免疫系の変動に対して、必ずしも有効に働かないことを示している。そこで次に、真菌感染防御能への脂質構成脂肪酸の影響を免疫系臓器でのサイトカイン、ホルモンおよび神経伝達物質の発現および分泌の変動との関連において明らかにすることを目的に、現在栄養実験を継続中である。
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