研究概要 |
宿主の感染抵抗能におよぼす食餌性脂質の影響をモデルに,感染に伴うサイトカイン、ホルモンおよび神経伝達物質の発現および分泌の変動を調べ,感染防御能とこれら内分泌系の働きとの相関関係におよぼす栄養素の影響について検討した。6種類の油脂(魚油、大豆油、パーム油、大豆油+EPA,大豆油+DHA,パーム油+EPA)を含む食餌でマウスを30日間飼育した後,病原真菌Paracoccidioides Brasiliensis(P.Brasiliensis)を静脈接種した。その結果、各群とも脾臓および肝臓の脂質構成脂肪酸組成は,食餌性脂質構成脂肪酸組成を反映していた。血液中の免疫抑制性酸性タンパク濃度は,魚油摂取で他の群にくらべ有意に低下していた。大豆油およびパーム油摂取にくらべて魚油の摂取により,感染初期における脾臓での菌の排除能力が亢進した。一方,大豆油摂取にくらべて大豆油+DHA摂取により,感染初期における肝臓での菌の排除能力が低下した。これら食餌性油脂の種類により生じた菌の排除能力の差は感染後期には見られなくなっていた。感染にともない各群とも血中IFN-γ濃度が上昇したが,脾臓での菌の排除能力が亢進した魚油摂取群では,他の群にくらべて感染中期におけるIFN-γ濃度が有意に低かった。逆に,肝臓での菌の排除能力の低下がみられた大豆油+DHA摂取群で,他の群にくらべて感染中期におけるIFN-γ濃度が有意に高かった。また,感染に伴い血中コルチコステロン濃度が感染中期より上昇したが,各群の間で有意な差は認められなかった。現在までの結果から,P.brasiliensis菌に対する宿主の抗菌能はn-3系高度不飽和脂肪酸により影響を受けるが,同時に摂取されるn-6系不飽和脂肪酸の割合によりその影響が左右されることが明らかとなった。また食餌性脂質による感染初期の抗菌能の変動が,感染中期におけるIFN-γの産生,分泌の調節により,感染後期にはなくなることが明らかになった。
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