本研究では高血糖およびインスリン抵抗性を特徴とする鶏の特異的な血糖維持機構を解明する観点で、グルコースの取り込みを担うインスリン感受性グルコーストランスポーター(GLUT4)の分子生物学的追究を行った。これまで鶏(鳥類全体)においてGLUT4の存在が予測されてきたが、存在の確証は得られていない。 (1)ノーザンブロットによる検索 : 鶏のほとんど全ての組織(19部位)に対し、ラットGLUT4 cDNAプローブを用いたノーザンブロットを、非常に弱い条件(40-60%の相同性を持つ配列に結合)で行ったが、鶏の全ての組織においてシグナルは検出されなかった。 (2)RT-PCRによる検索これまでラット、マウス、ウシおよびヒトでGLUT4がクローニングされている。GLUT4は種を超えて非常に高い相同性があり、また保存されている領域も多い。そこでGLUT4遺伝子の全ての共通配列部分からオリゴヌクレオチドを設計し、骨格筋、心筋、脂肪組織および肝臓を対象としてRT-PCRを行った。得られたPCR産物全てにおいてシーケンスを行ったが、他種動物のGLUT4と相同性のあるものは得られなかった。 (3)サザンブロットによる検索鶏肝臓から抽出したゲノムDNAにおいてラットGLUT4 cDNAプローブを用いたサザンブロットを行った。ノーザンブロットと同様に非常に弱い条件で行ったが、鶏ゲノムにおいてシグナルは検出されなかった。 (4)他鳥類におけるGLUT4のクローニングカモ、ウズラの組織のノーザンブロット、サザンプロットおよびRT-PCRを行ったが、いずれの組織においても他種動物のGLUT4と相同性のあるものは得られなかった。 以上の結果から、鶏においてインスリン感受性のGLUT4は存在しない可能性が強く示された。このように、鶏の高血糖や高インスリン抵抗性の根拠を分子生物学的に提示した。
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