受精卵におけるミトコンドリアタンパク質の消長を調べる目的で、まずそれをコードする遺伝子の発現について調べた。ミトコンドリアを構成するタンパク質の大部分は核にコードされた遺伝子から発現しており、細胞質で合成されたタンパク質がミトコンドリア内にインポートされることによりミトコンドリアの構成タンパク質となる。そこで、その消長を調べるために、まず、インポートに重要な役割を演じていると考えられているTim23の発現を調べることにした。 マウスにおいては、Tim23は未だクローニングされていなかったため、まずそのクローニングを試みた。乳腺細胞は泌乳期に著しくミトコンドリアの数が増えるため、ここから得たmRNAを材料にして、ヒト、酵母などのTim23の塩基配列を参考にPCRプライマーを作成し、Tim23 cDNA断片を得、さらに3'および5'-RACEで全長のcDNAを得た。このcDNAを用いて、乳腺細胞についてin siteハイブリダイザイションを行った結果、増殖期に比べて、ミトコンドリアの数が増える泌乳期で著しくTim23の発現量が増えていることが確認できた。また、RT-PCRによっても泌乳期での著しい発現増加が確認できた。さらに増殖期の乳腺をホルモン処理により泌乳状態に変えることにより、Tim23の発現増加が誘導できた。これらの結果は、Tim23遺伝子の発現とミトコンドリア数の増加が密接に関連しており、この発現量の変化がミトコンドリアの消長の良い指標になることを示している。 そこで、次に初期胚におけるTim23の発現をRT-PCRによって調べたところ、受精後にTim23遺伝子の発現が確認できた。
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