まず、コンピューターシミュレーションとの比較を容易にするため、カルチャーインサートを用いて肺上皮が二次元的に成長するように培養条件を改良した。次に、実際に形態変化を引き起こす因子を同定するために、肺の上皮の形態形成の過程を連続撮影して観察した。その結果、肺の分岐が形成される際に、切れ目となる部分がもとの位置より後退することを発見した。これは、突起になる部分の細胞増殖が増える、というような単純な細胞分裂の差では説明できない現象である。また、切れ目の角度が鋭いことから、細胞外基質の産生が切れ目の部分で促進されている、とも考えにくいため、形態形成の初期の段階で、細胞骨格がなんらかの役割を果たしていることが示唆された。 次に、細胞骨格の役割を同定するために、形態形成の期間中の肺におけるアクチン線維の分布を観察した。当初、切れ目ができる部分になんらかの細胞骨格の構造が検出できるものと予想していたが、予想に反して、切れ目の部分ではなく、分岐の突起の部分にアクチン線維の集積が観察された。また、FGF10に浸したビーズを用いて、ある特定の方向に突起の形成を誘発してやると、誘発された突起の先端部にもアクチン線維の集積が認められた。以上の実験結果より、アクチン線維は形態形成になんらかの作用はするものの、一番初期の突起の位置の決定には関与せず、FGF等の分布によって二次的に形態形成に関与することが示唆された(Int J Dev Biol44:892-902(2000))。
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