培養系における肺の枝分れ構造の形態形成に関しては、これまで発生生物学の分野ではBMP4が側抑制因子として働くモデルが提唱されてきた。このモデルを検証するために、マウス胎児肺の培養系において、ビーズを用いてBMP4を局所的に投与する実験を行ったところ、予測されるような局所的な抑制作用は見られなかった。このことから、BMP4以外の側抑制因子が働いている可能性を考え、上皮細胞がFGFを消費する事によるFGFの欠乏が側抑制因子として働く新たなモデルを作った。まず、実際の培養系においてFGFの分布が上皮周辺で少ない事を確かめ、FGFが上皮細胞によって消費されている事を示した。次に、このモデルを元にして計算機シミュレーションを行い、このモデルが枝分れ構造の形成する能力がある事を示した。 更に、このモデルが培養系における形態変化を予測できるかどうか検証した。モデルから、FGFの濃度を変化させると上皮の枝分れの形態が変化する事が予測されたが、実際の実験で同様の形態変化が起こる事が確認された、また、Collagenaseによって周囲の細胞外基質を分解した時や、異なるFGFのサブタイプを投与した時に形態変化が起こる事が知られていたが、これらの結果も、FGFの拡散系数が変化していると考えるとこのモデルで説明できる事を示し、また実際に実験的にFGFの拡散系数が変化している事を示した。これらの実験結果は理論モデルと実験生物学の境界分野を拓くものとして意義が大きく、現在Mechanism of Development誌に投稿中である。
|