最近発見された平滑筋収縮修飾蛋白質であるカルポニンの血圧調節機構における役割を明らかにする目的で、環境適応分野からカルポニンノックアウトマウスの提供を受け共同研究を行った。その結果、ノックアウトマウスでは対照マウスに比べ、トレッドミル走行時動脈血圧の平均値には差を認めなかったがその変動幅が大きく、トレッドミルの最高走行速度も有意に低下した。次に、安静時の血圧調節について、カルポニンノックアウトマウスは対照マウスと比べ、動脈血圧の平均値も動揺幅ににも違いを認めなかったが、一定の血圧変動に対する心拍数の応答が亢進していた。この血圧変動に対する心拍応答の違いは、動脈系圧受容器の除神経によって消滅した。以上、運動時の結果から、カルポニンが血圧調節の安定性に関与していることが明らかとなり、さらに安静時の結果から、ノックアウトマウスにおいて血圧の変動に異常を認めなかったのは、動脈血圧反射の感度を増加することによって補償的に血圧を安定させていることが明らかとなった。これらの結果から、生体は例え一つの遺伝子が欠損しても、ホメオスターシスを保つために他の機能が発達することによって補償しうること、したがって、一つの遺伝子の生理的意義を論ずる場合、他の遺伝子の生理作用との関連において統合的に論じなければならないこと、が明らかとなった。その結果を平成12年9月、米国PortlandでのAPS Intersociety Meeting、the Integrative Biology of Exerciseで発表した。
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