個々の転写因子が発現調節を行う「下流遺伝子」の同定は極めて困難である。本研究の目的はその方法を開発する事にある。 本研究で開発をめざした「下流遺伝子」の単離法は、目的とする転写因子の抗体を必要とすることなく迅速に行えるという特徴を持つ。まず、SV40複製開始点を持つプラスミドに、SV40 large T抗原cDNAをthymidine kinase遺伝子由来のminimal promoterの制御下になるよう挿入した。ついで、このプラスミドのminimal promoterの上流にマウスのゲノム断片を挿入し、マウスゲノムライブラリーを構築した。「下流遺伝子」の同定を目指す転写因子としてPax3を選び、このcDNAの哺乳動物発現ベクターを構築した。これらを同時にサルの腎臓由来のCV-1細胞に導入すると、Pax3の結合領域を含むゲノム断片を挿入されたプラスミドはSV40 large T抗原の発現によりSV40複製開始点を介して著明な増幅を受けると考えられた。これらの細胞からHirt法を用いてプラスミドを回収した後、同様のアッセイを繰り返すことにより、目的とするPax3結合領域を含むゲノム断片が単離できると予想された。しかし、報告されているPax3結合配列を含むDNA断片をpositive controlとしても、濃縮は確認できなかった。SV40 large T抗原に対する抗体で検討したところ、プラスミドを導入した多くのCV-1細胞でSV40 large T抗原の発現がみられ、系が動かない原因は高いバックグラウンドによると考えられた。今後は、いかにバックグラウンドを実用レベルにまでおとすか、という点を検討する必要がある。
|