人間を含む哺乳類の眼や皮膚にはメラニン色素の沈着が起こるが、この色素の個体自身に対する働きは興味深い。本研究では、申請者自身が原因遺伝子を解明した遺伝性心筋症ハムスターが合併するユニークな遺伝性白子症に着目し、眼球色素の視覚機能における働きの解明を目指す。心筋症ハムスターの服色は加齢と共に徐々に赤から黒に変化する。平成12年度の研究により、この眼色のユニークな変化は、網膜色素上皮および脈絡膜に加齢と共に漸増的な色素の沈着が起こるためであり、メラニン色鷹生合成の律速酵素であるチロシナーゼ比活性の低下が原因であることを明らかにした。 平成13年度は、心筋症ハムスターにおけるチロシナーゼ遺伝子(TYR)の解析を行った。その結果、そのcDNAの785番目の塩基であるチミン(T)がシトシン(C)に変異し、その結果262番目のアミノ酸がロイシンからプロリンにていることを突き止めた。さらに、このmissens mutationを有するチロシナーゼを培養細胞に発現させたところ、その酵素活性が低下していることが明らかになった。心筋症の原因遺伝子であるデルタ・サルコグリカン(δ-SG)は網膜にも発現しているので、心筋症ハムスターと正常Goldenハムスターを交配させ、δ-SGは正常ホモ、TYRは異常ホモのハムスターを作出することを試みた。約200匹のF2を作り、PCRによる遺伝子診断で、目的のハムスターのオス、メスをそれぞれ数匹ずつ得た。さらに、これらを交配させ、δ-SGは正常ホモ、TYRは異常ホモという新規の疾患モデル動物を創出した。このモデル動物は、網膜色素と視覚機能の関係、さらにはアルビノ患者に対する再生医療のモデル動物として極めて有用である。
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