研究概要 |
プロスタサイクリン(PGI)は,アラキドン酸からシクロオキシゲナーゼ(COX)およびPGI合成酵素(PGIS)により作られ,強力な血小板凝集阻害作用および血管拡張作用を有し、循環器系の制御に重要な機能を有する脂質メディエータである。前回、内在性PGISを発現している心血管系の細胞において、シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)遺伝子の導入により顕著なviabilityの低下とapoptosisを誘導すること、また、内在的にPGISの発現が検出されない細胞系においてはCOX-2遺伝子とPGIS遺伝子を共導入すると効率良くapoptosisを誘導することを報告した。今回さらに、ヒト結腸癌由来Caco-2細胞、サル腎由来CV-1細胞において、活性型PGIS発現ベクターあるいは不活性型PGIS発現ベクターを導入したのち検討した結果、HEK-293細胞のみならず活性型PGIS発現ベクターを導入したCaco-2細胞およびCV-1細胞においてアポトーシスの誘導が認められた。一方、不活性型PGIS発現ベクターを導入したこれらの細胞には全く変化が認められなかった。これより、CV-1やHEK-293などの腎臓由来の細胞だけでなく、結腸癌由来細胞のアポトーシスもPGIS遺伝子の導入によって誘導できることが示唆された。一般にアポトーシスを制御する代表的な転写因子群としてNFκBやAP-1が知られている。今回NFκB応答配列またはAP-1応答配列を上流に含むルシフェラーゼ・レポーターベクターと共にPGIS遺伝子をHEK-293に共導入しアポトーシスを誘導させたところ、NFκ活性にはほとんど変化が認められなかったが、AP-1活性に顕著な低下が認められた。また、モノクロタリン肺高血圧ラットに、HVJリポゾーム法でヒトPGI発現ベクターを投与した結果、肺高血圧の改善が認められた。
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