活性化リンパ球のみに作用し細胞死を誘導し、静止リンパ球および体細胞には作用しないこのモノクローナル抗体が結合する分子はMHCクラスI分子であること、細胞骨格がこの細胞死誘導に関わっていることが明らかになった。しかし、クラスI分子に対する別の抗体では、このような細胞死は誘導されず、また、トランスフェクタントを用いて調べると、リンパ球系細胞では細胞死が誘導されるが、上皮系細胞では細胞死が誘導されなかった。したがって、MHCクラスI分子そのものが細胞死のシグナルを細胞内に伝えるのではなく、MHCクラスI分子に会合した形で存在していて、リンパ球系細胞に発現される第2の分子によりシグナルが伝えられていることが示唆された。最近、リンパ球系細胞に発現されているCD47分子が一般的なアポトーシスの経路で使われるカスパーゼ経路を経ない細胞死を誘導する分子として報告されている(Nature Medicine)。本研究ではこの点も視野に入れ解析を行ったが、CD47分子の関与は明らかに出来なかった。今後、この新しいタイプの細胞死を誘導するMHCクラスI分子に会合したシグナル伝達分子を同定する必要がある。 細胞死誘導の分子機序およびその生体内リガンド分子を明らかにすることにより、リンパ球特異的に認められるこの新しいタイプの細胞死の機構を利用して、(1)免疫応答制御機構の解明、特に免疫応答終息機構としての活性化リンパ球の細胞死誘導機構の解明、さらにこれらの知見を応用することにより、(2)現在社会的に問題となっている臓器移植でその成否を左右するアロ反応性を、反応する細胞群を特異的に細胞死させることにより除いて移植成績を向上させるなど、応用技術の開発を目指すことが可能になると考える。
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