本研究の目的は、ヒト腎臓に寄生するJCウィルスのDNA型判定が、日本における身元不明死体の生前の居住地判定に応用可能かを検索することにあった。この目的のため、法医学教室において解剖された、出身地が明らかである日本人または外国人遺体から供された死体腎を用い、JCウィルスのDNAを抽出しPCRにて増幅後型判定を行った。その結果、以下の知見が得られた。 1.6割程度の死体腎からJCウィルスのDNA型が検出される。 2.死後数ヶ月を経た腐敗死体からも検出が可能。 3.ホルマリン保管された腎臓標本からも検出が可能 4.日本人からは日本型であるCYまたはMY型のみが検出される。 5.インド、ミャンマーなどに居住していたものからは日本型であるCYやMYは検出されず、その地域に特徴的な型が検出された。 6.死後10ヶ月経過したイギリス人の死蝋化死体からはヨーロッパに検出されるBlc型が検出された。 これらの結果から、死後経過時間の長い遺体場合や、ホルマリン標本となった標本など、法医学領域で扱う遺体や試料においても本方法が適応可能で、さらにはCYやMY型以外の型が検出された場合は日本人でない可能性が高いことが示され、本方法が法医学領域においても十分応用可能であることが期待された。今後、さらに日本人、外国人両方の検体数をふやし、CYまたはMY型以外が出た場合の、外国人である確率などを算定する必要があると考えられた。また、本方法はヒトDNAでなく、寄生生物のDNAに着目することが、出身地域推定により有用である事を示した点で大変意義深いと考えられた。
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