転移した肝細胞癌を治療するために、αフェトプロテイン遺伝子を用いたTranscriptional targetingという新しい概念のウイルスベクターを作製し、動物を用いた肝細胞癌の治療実験に成功し、つづいて、このベクターの問題点であった治療遺伝子の発現量不足についても、Cre、LoxPの系を用いた2重感染法によって極めて高い発現量を可能にした。しかしこの系では2つの異なるベクターがひとつの細胞に感染する必要から、大量のベクター投与が必要であった。そこでCreとLoxPを同じベクター上に組み込んでベクターを作製し、解析を行った。容易にCre-LoxP recombinationが生じるため、αフェトプロテイン遺伝子を4.9kbのものからプロモーター領域を含むだけのものにして解析した。またαフェトプロテインのプロモーター活性を低下させるためホルモンの添加など、各種の培養条件を解析した。しかしプラスミッド作製の時点ですでにrecombinationを生じている可能性が考えられたため、アデノウイルスの調整後にrecombinationを検討する方法では時間がかかるため、PCR法を用いて簡便に早期にrecombinationを検出する系を開発した。現在、この系を用いてrecombinationを生じないベクターのコンストラクションをスクリーニングしている。現在のところrecombinationの率は5%程度であるが、これが293細胞にtoxicな影響を与えており、アデノウイルスベクターのタイターが十分に得られず、recombinationの率を1%程度に下げる条件の検討を行っている。また、HSV-TKの発現量が少なくとも十分な腫瘍効果をえるための新たなベクターの改変を行っている。
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