進行肝細胞癌に対する遺伝子治療ベクターの開発として、肝細胞癌において特異的に発現しているαフェトプロテインのプロモーターを用いることによって、肝細胞癌特異的な治療法が可能であることを示してきた。また特異性を保ったまま、発現量をあげるためにCre、Loxの系を用いるベクターを作製してきた。本年度は、このCreとLox pを有する2つのウイルスベクター系を用いて自殺遺伝子であるHSV-TK遺伝子を導入し、動物実験を行った。その結果、抗腫瘍効果を得るためには、大量のウイルスベクターを投与することが必要であった。この機序を検討したところ、2つのウイルスがひとつの細胞に感染して効果を示すためには、MOI25以上が必要であることがわかり、臨床に導入するには大きな問題であることが明らかとなった。。 このように自殺遺伝子を用いた治療法では、バイスタンダー効果によって抗腫瘍効果をあげられるものの充分な効果には至らない可能性が示された。このことから自殺遺伝子療法に免疫療法を加えるベクターの考案を進めた。自殺遺伝子療法によって死にいたった細胞に対して、マクロファージが動員され、その後の抗腫瘍免疫が引き起こされる可能性を検討した。HSV-TKの発現に加えて、monocyte chemoattractant protein-1(MIP)を導入したベクターを作製し、動物における抗腫瘍効果および、マクロファージの関与について検討した。MIPを導入することにより、抗腫瘍効果は有意に上がり、またこの効果発現にはマクロファージの関与していることを示した。 一連の検討によって、効率の良い自殺遺伝子の導入と抗腫瘍免疫の導入によって新抗癌の治療ベクターが開発される可能性が示された。
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