研究の対象は、肺癌35検体と同一人の病巣外肺組織35検体で、各3ケ所ずつ、計210回のスペクトル計測を行った。レーザー照射後、各検体より作製された病理組織標本では、顕微鏡下においてレーザーによる組織の挫滅は1例も認められなかった。これにより、スペクトル計測に使用したレーザーの安全性は確認された。計測により得られた各スペクトルをフィッティング解析し、さらに判定係数と測定ポイント数によるヒストグラムを作成してデータの分析を行った。癌と非癌部の鑑別に、境界値(カットオフ値)を判定係数0.5と仮定すると、症例単位で癌の診断におけるsensitivityは91%、specificityは97%であり、高い正診率を得た。またフィッシャーの直接確率検定では癌と非癌部との間に、p<0.0001の有意差を得た。以上から、境界値として判定係数0.5は有効であり、ラマンスペクトルの解析により肺癌の客観的診断は可能と考えられた。False negativeとなった症例は3例存在した。その病理組織像では、いずれも間質の増生が著明であり、得られたスペクトルが、癌と非癌部の混在する病理組織像を反映したため、結果としてFalse negativeとなったものと考えられた。以上から、ラマン分光法は、生体に損傷をあたえることなく安全に行える検査法であり、高い正診率で肺癌を診断できる検査法であることが確認された。また今回、スペクトル計測の測定時間は1秒であり、内視鏡との併用で、肺癌を非侵襲的かつ安全、迅速に診断できるものと考えられる。
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