磁石圧迫吻合術は吻合しようとする臓器内に強力な永久磁石をそれぞれ1個づつ入れ吸着させ合い、吻合を形成しようとする非手術的療法(Interventional Radiology ; IVR)のことである。この手法を思いつくにいたったきっかけは今から11年前の小児の貼付用磁石治療器具(ピップエレキバン)の誤嚥による腸閉塞症例において、吸着しあった磁石同士の部分に吻合が形成されていたという事実に基づいている。この手法によれば手術せずにさまざまな腸管吻合を作ることが可能であり、臨床の各分野において応用可能なことから各科より広く注目を浴びている。またやがては磁石を留置した後、在宅のまま吻合の完成を待つということも行われるようになると思われ、高齢化杜会を見据えた治療としても大きな期待が持たれている。この手法は既に臨床例で60例以上の経験を持っており、その成功率も極めて満足行くものであるが、その成因メカニズムは未だ未解明である。また血管応用への可能性などについては未だ不明である。よって、この研究はこのメカニズムの解明と血管応用への可能性を調べることを目的とし、今年度は特にそのメカニズムの解明に重点をおいた。 メカニズムの解明モデルとしてラットの結腸間に磁石を2ヶ留置し、吻合形成を経時的に追い、その時にどのような変化が起きているか病理組織学的に検討した。磁石吸着後48時間以内に強いfibrin netによる吻合部周囲腸管の包み込みが生じ、これが外科的吻合における縫合糸の代わりとなって吻合完成まで腸管密着を維持しているものと考えられた。このような所見は今まで報告されていないもので極めて興味深いものと考えられる。 また術後吻合部の粘膜の捻れや肉芽による早期狭窄に対して、この手法を応用することにより再手術なくして狭窄を除去出来ることが判明し、実際に臨床8例に応用し、すべての症例において成功を収めるという素晴らしい成績を挙げることが出来た。
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