研究概要 |
神経性大食症は,「気晴らし食い(binge eating)」と呼ばれる特異な過食パターンをとることが特徴とされ,ラットにおいては摂食制限処置後の「過食」が「気晴らし食い」のモデルとなりうるとの報告もみられる。一方,神経性大食症と感情病のcomorbidityの指摘されているが,これまでの研究より,ラット胎仔において神経伝達物質受容体形成に重要な時期となる妊娠後期の母ラットに軽微なストレスを負荷し,生まれた仔ラット(胎生期ストレス群)が,感情病(うつ病)の生化学的脆弱性モデルになりうることを確認してきた。そこで,通常のラットに比し胎生期ストレスラットを用いる方がより有用な神経性大食症のモデルラットが作成可能であると考えた。通常は自由に摂食,飲水可能な状態で飼育しているが,摂食時間を1日に2時間のみとする摂食制限を14〜21日間実施した。摂食量は,餌受け内のペレットがなくなるとパルス信号を出力し,新たなペレットを1個補給することで正確な摂食量が測定可能なペレットフィーダユニットを用い,15分ごとの累積値を計測した。今回,(1)雄性ラットでは胎生期ストレス群で摂食制限反復後の24時間絶食の後,最初の1時間あるいは4時間の摂食量は対照群に比し有意に増加していた。(2)摂食制限開始時の体重は両群間に差はなかったが,摂食制限反復後3ヶ月あるいは7ヶ月後の体重は対照群に比し胎生期ストレス群で有意に増加していた。(3)雄性ラットでは胎生期ストレス群において,24時間絶食後の明期摂食量および摂食量のLD比(明期摂食量と暗期摂食量の比)の有意な増加がみられ,摂食量の概日リズムの障害が示唆された。(4)雌性ラットでは上記の雄性ラットでみられた結果は認めなかった。以上より,胎生期ストレス群雄性ラットは,摂食制限反復後に対照群と比較しても過食がみられ,長期的にも体重増加を示すことより神経性大食症の有用なモデルになりうると考えられた。
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