研究概要 |
うつ病は、感情・情動という脳の高次機能の変化をきたす疾患で、病相を繰り返し、発症頻度が高く、早くからアミン受容体仮説、セカンドメッセンジャー仮説などに基づき生化学的な研究が行われてきた。しかしいまだに一致した見解は得られていない。そのような状況の中から遺伝学的な研究が1980年代後半から始まり、双生児研究・養子研究などから発症には多因子遺伝が関与することが解ってきた。現在までに多数の遺伝子座が報告されているが、躁うつ病の遺伝的異質性から一致した結果は少ない。 我々はうつ病に関連した遺伝子座を検出するために新しい試みとして動物モデルを使ったQTL(Quantitative Trait Loci)解析法に注目しこれを採用した。この方法は、ある行動に関して異なる表現型をもつ2系統の動物を選び、F2世代において遺伝子解析することによって、その行動を支配する遺伝子座を検出する方法である。うつ病に関連する行動評価として、強制水泳テスト(FST)と尾懸垂テスト(TST)を採用し(このテストは抗うつ薬のスクリーニングテストとして評価されているが、絶望状態を示すことからうつ素因を検出できると考えられる)、無動時間を指標として系統差を検討した。C57BL/6,C3H/He,DBA/2,Ba1B/Cの4系統のマウス間の系統差を調べた結果、C57BL/6とC3H/Heの間に有意な無動時間の差を確認した。C57BL/6は無動時間が著しく長くストレスを受けやすい系統、一方C3H/Heは無動時間が短くストレスに抵抗を示す系統と判断した。それらを親(FO)として選択しF2世代560匹を作製した。作製したF2世代全個体の行動解析を行い、次いで各個体の尻尾からDNAを抽出し、マイクロサテライトマーカー120個を用いてジェノタイピングを行った。ジェノタイピングの結果と表現形の結果よりQTL解析を行い、Interval Mappingにより、うつ病に関連する遺伝子が染色体のどの領域に存在するか検索した。 現在、8番、14番染色体でLod score 3以上のピークを示すQTLを見い出すことに成功した。今後さらに解析を継続して、候補遺伝子座を同定するところまで到達する予定である。
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