研究概要 |
【背景】アデノウイルスベクターを用いた癌の遺伝子治療ではいかに多くの腫瘍細胞にウイルス感染を誘導できるかが問題となる。解決策の一つとして制限増殖型のE1B55kを欠失した変異アデノウイルス(ONYX-015)が開発され、その有用性が既に報告されている。しかし、ONYX-015はP53経路に異常のある癌細胞でのみ有効て、全ての癌に適応があるとはいえない。癌細胞ではP53経路またはRB経路に異常が存在するため、RB経路を標的とする治療戦略も有用と考える。 【目的】早期発現遺伝子E1Aに変異が存在すると、アデノウイルスはRB/E2F解離が誘導できずに正常細胞では増殖しない。しかし、RB経路に異常が存在する癌においてはRBからE2Fが遊離するため、このE1A変異アデノウイルスは増殖可能となり殺腫瘍効果を示すことが報告されている。本研究ではE1B55kのみならず、E1Aにも変異の存在するアデノウイルス(AxdAdB-3)を作製し、膵癌に対する抗腫瘍効果を検討レた。さらに、E1Aの血管新生抑制作用についても検討を加えた。 【結果】1)cytopathic effect assayでヒト膵癌細胞8株(PK-1, PK-8, AsPC-1, PANC-1, BxPC-3, PCl-19, PCl-35, MiaPaCa-2)の膵癌細胞に対する殺細胞効果が認められ、ヒト正常線維芽細胞Wl-38では認められなかった。2)in vitroでのウイルス増殖能、感染効率はhexon proteinを用いた免疫染色にてONYXと同程度であることが確認された。3)アポトーシス誘導能はflow CytometoryにてONYXよりも強いことが確認された。4)SCiDマウスPCモデルで抗腫瘍効果はONYX-015よりも強いことが確認された(n=10per groups)。5)E1AはVEGFの発現を抑制し、血管新生を抑制した。 【まとめ】変異アデノウイルスは癌細胞で特異的に増殖し、癌の遺伝子変異の違いに関わらず強い抗腫瘍作用を示した。この変異アデノウイルスをベクターとして活用する遺伝子治療を開発したい。
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