研究概要 |
我々は、難治性癌細胞に癌抑制遺伝子を導入し、癌の悪性度を低く変化させたうえで、集学的治療(外科手術を中心に化学療法、放射線療法、免疫療法の併用)を加味して癌の根絶を図りたいと考えており、ウイルスに代わる遺伝子導入用ベクターの開発を行っている。 1.新規Lipoplex(Quarternary complex,Qplex)の開発:我々はCationic liposomeとplasmid DNAとの複合体いわゆLipoplexにprotamineおよびLigandとしてtransferrin(TF)を添加した4成分からなる複合体(Quarternary complex,Qplex)を開発した。Qplexの粒子径は動的光散乱法により258.6±88nmであり、Lipoplex(865±655nm)よりも粒子径が小さい均一な複合体を形成している。Plasmid DNAはβ-galactosidaseをコードしたものを用い、X-gal染色法で発現を調べた。AsPC-1細胞において接触時間2時間では15.4%の細胞に発現が見られたのに対し、4時間では44.2%、8時間では64.7%と、時間と共に発現効率が増加した。また、Lipoplex(1.8%)およびLipoplexにprotamine(8.6%)またはTFのみを添加した複合体(2.6%)に比べて、QpIexはいずれの細胞に対しても著しく高い発現を示した(64.7%)。さらにQplexは血清存在下で酵素活性、発現効率ともに高い値を示すことが分った。 2.JTS-1 fusogenic peptideを用いた遺伝子導入効率の増強:インフルエンザウイルス内の融合ペプチドを用いて、内封型のlipoplex:LPDにおいてplasmid DNA、protamine、JTS-1を混合することによりLPD/JTS-1複合体を調整した。Lipoplexに比較してLuciferase assayでは導入する癌細胞により1000倍から10000倍の導入効率の増加をin vitoroで認めた。 3.C型肝炎ウイルス細胞障害領域の同定:肝細胞癌の主な原因の一つであるC型肝炎ウイルスの中に細胞障害を引き起こす領域を同定し、この領域には、アポトーシスを引き起こし肝細胞を死に至らしめる作用と核染色体異常をおこす作用がある事を見いだした。この領域のplasmid DNAを腫瘍細胞内に導入すると、FACSおよびPI/Anexin V蛍光染色によりアポトーシスを誘発し抑制効果があることが分かった。LPD/JTS-1複合体を用いることにより、導入効率を増強できることがわかった。
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