研究概要 |
本研究の目的は胸腺腫腫瘍内リンパ球(TIL)の分化度・T-cell receptor再構成を解析することにある。 TILにはselectionを受ける以前の幼弱分画が多数存在することが表面抗原解析からわかっている。また、この分化度と胸腺腫の悪性度は関連し、特に胸腺癌ではTILは末梢血リンパ球と同等に分化していた。また、浸潤型胸腺腫と組織学的診断されたものの中でTILが胸腺癌並に分化した亜群の存在を見出した。 次にT細胞が成熟する過程でのTCR-β chainの再構成を検討した。TIL(N=6)のDNAを制限酵素BamHI,EcoRI,HindIIIで消化後、TCR-beta鎖上のJ-β1,J-β2,C-β1をマーカーとしてサザンブロット法を施行した。臨床病理学所見・TIL表面抗原と比較した。臨床病理診断としては正岡StageI,III各3例であった。BamHI消化後再構成バンド出現がJ-β2,C-β1で5例に認められた。EcoRI,HindIII消化後バンド出現がJ-β1で同じ5例に認められた。他1例はStageIII,上皮型で、表面抗原ではCD4,8double positive11%(他5例61±9%),single positive73%(他32±6%)と分化T細胞が多く、組織学的にもwell differentiated thymic carcinomaとの異同が問題となった症例であった。 T細胞分化過程でまずD-β領域のいずれか1つがJ-β領域の1つに結合し、次いでVβ領域に結合するが、Dβ-Jβの組み合せだけで24通りあり、再構成バンド出現はTILのmonoclonalityを示している。バンドが出現しなかったStageIIIの1例は胸腺腫の特性を持たず、胸腺癌の可能性がある。本法が組織学的に分類困難な浸潤型胸腺腫と胸腺腫との鑑別に有用であることが示唆された。
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