近年、重症脳損傷患者に対する脳低温療法(33℃前後)の有効性が報告され、新しい治療法の1つとして注目されている。しかし、その有効性に関する機構としては、グルタミン酸の放出抑制など従来の既知の神経細胞障害分子機構の全般的な抑制の観点からの報告にとどまっており、特に神経細胞の遺伝子・分子レベルでの機構の解明はなされていない。我々は32℃で発現誘導される新しいRNA結合蛋白CIRP(cold-inducible RNA-binding protein)を発見している。本年度はCIRPが神経発生期において発現していること、またCIRPの調節因子が存在することを見い出した。さらに、マウス神経細胞株を37℃と33-34℃で培養し、それぞれRNAを抽出してcDNAライブラリーを作成し、differential display法及び既報のごとくcDNA subtraction法(Endocrinology1995;Endocrinology1996;Dev Growth Diff1996;JBC1997)により33-34℃で温度特異的に発現している遺伝子cDNAの同定を試みたが、低体温そのものにより脳内において発現が誘導される未知の新しい物質を同定するまでには至っていない。今後も同様の研究を継続する予定である。
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