研究概要 |
【目的】悪性脳腫瘍の髄腔内播種は極めて難治性であり、新しい治療法の開発が切望される病態である。AIDS virusの部分蛋白であるTATペプチドは僅か11アミノ酸の配列であるが、そのC末側に120kDもの大きな蛋白が融合されても、あらゆる細胞内へ効率よく侵入する機能を持つ。この機能に注目し、細胞周期制御因子をTATペプチド融合蛋白として髄腔内に投与することにより、細胞の分裂を停止して播種細胞特異的な治療を行う事を目的として研究を行った。【方法】Washington大学Steven Dowdy博士より供与されたTAT-LacZ,TAT-GFP,TAT-p16(wild type),TAT-p16(mutant)の各融合蛋白発現プラスミドを用い、融合蛋白を大腸菌より精製した。これらの蛋白を用い、1)in vitroでC6ラットグリオーマ細胞へ各蛋白を導入し、導入効率を解析すると同時に、細胞周期への影響を解析した。2)正常ラットの髄腔内に各蛋白を注入し、融合蛋白の分布と毒性を解析した。3)C6細胞の髄腔内播種モデルを作成し、その髄腔内にTAT-LacZを注入し、蛋白の分布を解析した。【結果】1)in vitroの系でTAT-LacZ蛋白は用量依存的にC6細胞に導入され、特に核内への分布が確認された。2)15mg/mlという濃度で100%の細胞に蛋白が導入されが、細胞密度が低い状態ではより低い濃度で100%の細胞に導入可能であった。3)コントロールとして用いたTATが付加されていないLacZ蛋白はC6細胞内へは全く導入されなかった。4)導入には少なくとも8時間の細胞との接触が必要であった。5)TAT-GFPも同様に100%の細胞に導入可能であった。6)TAT-p16が核内に導入された細胞ではS期細胞の著名な減少が観察された。7)髄腔内に注入したTAT-LacZ蛋白はくも膜下腔全体に広がり、播種性のC6細胞及び脳表の組織に導入された。8)TAT-LacZ,TAT-p16を髄腔内に注入することによる毒性は認められなかった。【結論】TAT融合蛋白を用いることにより、髄腔内播種細胞の核内へ効率よく蛋白分子を送り込む事が可能である。TAT-p16の髄腔内投与は重篤な副作用もなく、治療効果が期待される。今後はTAT-p16やTAT-p27を用いた播種モデルの治療実験を行う予定である。
|