中枢神経系のプレコンディショニングとはストレス蛋白の発現や細胞内情報伝達系の抑制により、虚血に対する脳の耐性を高める方法である。プレコンディショニングは有望な神経保護手段と考えられているが、その導入には短時間の虚血侵襲や、スプレディング・デプレション等の発生が必要なため、臨床では行われていない。一方、電撃痙攀法は精神科領域の診療で使われており、安全性が確立している。昨年度は、電撃痙攀法により、プレコンディショニング効果が得られることを確認した。痙攀48時間後に4-vessel occlusion法で10分間の全脳虚血を負荷し、虚血負荷5日後の組織所見で有意な保護効果が観察された。本年度は電撃痙攀と軽度低体温に相加的な保護効果があるか検討することを目的としている。そのため、軽度低体温法による保護効果を定量化する必要があり、34℃と31℃の軽度低体温で神経細胞障害が引き起こされる虚血時間がどの程度延長するか検討した。砂ネズミを用い、3-20分間の前脳虚血を2-vessel occlusion法により負荷した。虚血中はDC-potenntialを測定し、脱分極時間測定した。脱分極時間と神経細胞障害に間には強い相関が認められ、50%の神経細胞障害を起こす脱分極時間は37℃で8分、34℃で14.2分、31℃で26分であった。神経細胞は37℃に比べ、34℃では1.65倍、31℃では2.9倍の虚血時間に耐えることがわかった。また、31℃の神経細胞保護効果は34℃の約3倍であることが示された。
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