平成12年度では超高速度カメラと血小板染色蛍光色素(carboxyfluorescein diacetate succinimidyl ester:CFDASE)を用いて、ラット腸間膜微小循環系における吸入麻酔中の血小板接着反応を生体顕微鏡下で観察・解析した。その結果、少なくともハロセン、セボフルランは吸入濃度を1MACから2MACに増やすと、毛細血管後細静脈血管壁側の血小板密度が中心部の密度に比べて増加する辺縁移行(margination)を認め、同時に赤血球速度に対する血小板速度比(V_P/V_R ratio)が低下して、いわゆる血小板-血管内皮細胞接着反応が惹起されることが判明した。この現象は1MACレベルに吸入麻酔濃度を低下することにより認めなくなることから、濃度依存性で可逆的であることも併せて判明した。生体内解析のために無麻酔での観察が出来ないものの、ペントバルビタール麻酔下での結果(Circ Res 2000;84:1031)と1MACレベルでの血小板動態がほぼ一致することから、1MACをコントロールと出来ると判断している。申請者らは以前白血球接着反応が臨床使用濃度の吸入麻酔により惹起され、組織障害の素因を形成する可能性を示した(Anesthesiology 1997;87:591)。今回の解析から、ほぼ同様の結果を血小板動態でも認め、現在血小板接着分子glycoprotein Ibαのモノクローナル抗体を用いた機序解明に加え、heme oxygenase-1(HO-1)誘導、nitric oxide syntase(NOS)阻害薬等を用いてガス状メディエーターNitric oxideやCarbon monoxideの関与の解析を計画している。最終的には麻酔薬による血管内皮細胞への血小板刺激因子を探り、麻酔中における血小板と白血球接着反応との関連を明らかにしたい。
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