研究概要 |
生体におけるノルアドレナリン性神経の働きは、交感神経系の根幹となってその調節を行っているばかりではなく、下行性疼痛抑制系を構成するなど様々な機能に関与している。ノルアドレナリントランスポーター(以下NAT)は、シナプスにおけるノルアドレナリンの神経伝達の終了に大きな役割を持っている。一方、麻酔薬は興奮期に一過性の精神運動興奮作用や交感神経刺激作用を発現し、一部の麻酔薬においては痙攣を誘発する作用を持つなど、麻酔管理上好ましくない生体の反応を認める。しかしこれらの作用の機序は現在まで解明されていない。 今回我々は、ノルアドレナリントランスポーター(NAT)を発現している副腎髄質細胞を用いて静脈麻酔薬のノルアドレナリン取り込みに対する影響の検討した。その結果、静脈麻酔薬(プロポフォール、チオペンタール、ジアゼパム)は[^3H]-NAの細胞内取り込みを抑制した。また、NATのアミノ酸配列から、三環系抗うつ薬(デシプラミン)の結合部位が推定されている[^3H]-デシプラミンのNATへの結合に及ぼす静脈麻酔薬の影響を調べ、これらが非拮抗阻害であることが示された。 また、静脈麻酔薬の長時間作用がNATに及ぼす影響の検討するために、長時間反応させた細胞からNATmRNAを調製し、NAT遺伝子の塩基配列に基づいて作成したNATcDNAに対する2つのプライマーを用いてRT-PCR(reverse transcriptase-polymerase chain reaction)法でmRNAを定量し、麻酔薬の長時間作用によるmRNAの変動を調べた。その結果、プロポフォールはNATmRNAを増加させた(Anesthesiology 93:1329,2000)。さらに私たちは筋弛緩剤についても検討を続け、パンクロニウムがNATに影響を及ぼすことも確認している(Anesth Analg.Vol.91:546-551,2000)。今後はさらに麻酔薬のNorepinephrine Transporterに対する影響を検討していく予定である。
|