モルモットを用いてTMAG MLV(α-trimethylam-monioacetyl-didodecyl-D-glutamate chloride multilamellar vesicles)PEGFP(green fluorescence protein)-Cl 2nmol原液及び5倍希釈液を蝸牛窓経由で直接内耳注入またはジェルフォームに浸して蝸牛窓膜上に置いた。その後聴性脳幹反応(ABR)を測定し内耳を摘出した。摘出した内耳はヘマトキシリンエオジン染色による組織学的検討のほか共焦点レーザー顕微鏡による観察を行った。ABRでは、無処置耳に比して閾値の上昇がみられた。その程度は、原液群や直接内耳注入群に強かった。ただし、ジェルフォームに浸して蝸牛窓膜上に置いた場合は、反対側の耳とABR閾値に有意な差は認められなかった。組織学的検討では、コルチ器の障害、血管条の空胞変成がみられた。血管条が正常な例もあり、ラセン神経節細胞には異常は認められなかった。共焦点レーザー顕微鏡による観察ではPBSだけを入れたコントロールと差が認められなかった。 我々の結果は、遺伝子を含まないカチオニックリポソームにも内耳毒性の可能性があり、そのようなレベル量のカチオニックリポソームを使っても内耳内の感覚細胞に有効に遺伝子を注入することが困難であったことを示唆する。ウイルスベクターに比べてリポソームベクターは、細胞分裂をしていない細胞への応用がむずかしいが、カチオニックリポソームは陽性に帯電しており陽性の内リンパ直流電位により退けられた可能性も考えられた。
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