動物の歯や骨にはサーカディアンリズムの形態的表現ともいうべき成長線やそれらに関する周期的構造が普遍的にみられる。このリズム発現の機序を知るために遂行した研究とその成果について以下に述べる。 1 硬組織における時計遺伝子発現の同定 脳の視交叉上核は生体の様々なサーカディアンリズムの発振機構であるとされている。さらに視交叉上核に発現する遺伝子群が互いにフィードバックループを形成し自律的振動の歯車の役割を担っていると理解されている。歯や骨の成長線は、この中枢時計の振動現象が何らかの経路を介して末梢に伝達された結果、形態形成のリズムとなって記録されたものである。そこで中枢時計の信号を効率良く受け取り、またリセットする必要が生じた場合にそれを合理的に行うためには、末梢組織にも時計機構が存在するはずであるという仮説に基づき、in situ hybridization法を用いて歯や骨の細胞(主として象牙芽細胞、骨芽細胞、及び破骨細胞)に時計遺伝子が存在するかどうか、同定を試みているところである。局在を確認した後には、時計遺伝子の発現パターンに周期性があるかどうかをノーザンブロット法により検討する予定である。 2 骨代謝に存在するリズム構造の決定 規則的な明暗サイクルで飼育された動物の血清を1日の様々な時刻に採取し、各種骨代謝マーカーの測定を行った。骨吸収系マーカー(酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ活性、ピリジノリン値)、骨形成系マーカー(アルカリホスファターゼ活性、オステオカルシン値)には日内変動が存在することが明らかになった。骨吸収系・骨形成系パラメーター共に、動物の活動期中期に最低値、休息期中期にピーク値をとる位相を示し、それらの変動振幅もきわめて大きいことが示された。今後は、これらの骨代謝回転の時間構造に対応する遺伝子発現が認められるかどうか検討する予定である。
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