研究概要 |
これまで遺伝子治療には導入効率の高いウイルスベクターが用いられてきたが,安全性の面と導入遺伝子の制御の点から人工遺伝子キャリアーの開発が最重要課題の一つとなっている.最近Behrらにより、核局在化シグナル(NLS)を遺伝子に化学的に結合させることにより,核膜孔を介する能動的遺伝子送達方法が開発され発現効率を大きく向上させた.この研究は遺伝子の細胞内動態制御の重要性を強くアピールし,NLSによる遺伝子の核内送達は多くの研究者の注目の的となっている.しかしながら,NLSにより核膜孔を介した送達には大きな問題点もある.すなわち,核膜孔は最大26nmまでその孔径を開くことが知られているが,我々が導入したい遺伝子はコンパクト化してもなおその直径は70〜80nmもあるという巨大な分子であり,とうてい核膜孔を通過することはできない.これを通過させるためにはコンパクト化した遺伝子を一旦ほどかなければならない.そこで我々は,NLSにより核膜孔を介して遺伝しを導入する経路に対して,核膜孔を介さないで導入する全く新しいルートの開発が重要であると考えるに至った.マーカー遺伝子(green fluorescence protein : GFP)をリポフェクタミンで細胞内へ導入し,共焦点レーザー顕微鏡で経時的変化を追跡したところ,導入後30分においてすでに,一部の遺伝子は核内へ到達していた.また,核内の断層写真の解析から,巨大な遺伝子が核内へ陥没している状態をとらえることに成功した.これらの結果は,核膜孔以外のルートで核内へ遺伝子が取り込まれる可能性を示唆している.現在,この新しい核内移行機構に関して検討を行っている.
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