研究概要 |
狭心症発作を予防する薬物は時間薬理学的応用が確立されている。そこで、今回は狭心症発作が早朝から午前中に多いことを、血液の線溶系に関わる遺伝子PAI-1の心臓における発現から追求した。まず、夜行性動物のマウスはヒトと全く逆位相の夜の始まりにPAI-1の遺伝子発現のピークがあった。このリズムは時計遺伝子発現が異常になったclock/clock必マウスでは消失してしまうことが分かった。前年度の研究から、大脳皮質・海馬や肝臓の体内時計遺伝子mPer1やmPer2の発現に日内リズムが存在し、その発現パターンが、主時計である視交叉上核の発現より6-8時間ほど遅れていることがわかった。さらに動物の給餌時間を前進させると、大脳皮質、肝臓のいずれのPer遺伝子も発現リズムが前進することがわかっていたので、正常動物およびclock/clockマウスに制限給餌を施行し、心臓でのPer, PAI-1, Bmal1の発現パターンについて調べた。正常動物では制限給餌の時間帯に時計遺伝子発現のピークが移り、またこのときPAI-1のmRNA発現ピークも移ることが判明した。すなわち、心臓でも体内時計遺伝子発現は給餌時間の設定で同調させることが可能であり、時計遺伝子の支配下にあるPAI-1も同調されることが分かった。今回の研究で面白かった点は、正常給餌状態では時計遺伝子発現が減弱しているclock/clockマウスも制限給餌を施行すると、明瞭なリズムが出現してくるようになり、さらにPAI-1の発現も再びリズム性を示すようになったことである。つまり、規則正しい食事のリズムで時間薬理の実践が容易になることが強く示唆された。
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