研究概要 |
近年のDNAチップ技術の開発は、将来の遺伝子検査に大きな変革をもたらすと予想される。この技術の応用範囲は広いが,現時点では主に遺伝子の発現プロファイル解析による腫瘍の個性診断への応用が注目されている。技術の応用は、未だ研究室レベルであり、臨床検査分野への応用は遅れている。しかしながら、DNAチップ技術の原理を応用すれば、従来の方法に比べて効率良く遺伝子検査を実施できると考えられる。 多くの癌ではサイクリン依存性キナーゼCDK4/6の抑制因子をコードするp16癌抑制遺伝子が欠失している。そこで、p16遺伝子を含む9番染色体短腕の欠失診断に応用可能かどうかを検討する目的で本研究を以下のように実施した。 9p21の欠失好発部位に相当するゲノム・クローン(phage contigs)をプラズミド・ベクターにサブクローンし、両端の塩基配列を決定した。それらの配列情報をもとにsequence-tagged site(STS)-PCRを開発し、各種癌細胞株における欠失地図を作成した。次に、少量の正常細胞と癌細胞から抽出したDNAを鋳型にして、全ゲノムを増幅するPCR法を検討した(Whole Genome Amplification;WGA)。少量の鋳型DNAから、アガロースゲル上で十分観察可能な程度にまで増幅できた。これらの増幅産物を鋳型にして、9p21部位のMTAP遺伝子とp16遺伝子を増幅するPCRでは、両遺伝子を欠失する細胞からは増幅されず、正常細胞からの産物では、両遺伝子とも検出された。次年度には、プラズミド・クローンをナイロン膜にスポットし、それぞれ異なる蛍光色素で標識した正常細胞と癌細胞のWGA産物とハイブリダイズさせて、欠失部位を診断する方法の確立を目指す。
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