病原性大腸菌(0157)に感染した幼児が発症する急性、慢性中毒症状が、この大腸菌が産生するShiga-like toxin(Stx)によることが知られている。その毒性発現の詳細は未だ不明な点が多く、乳幼児で高頻度に発症する腎機能障害を主徴とする溶血性尿毒症症候群(HUS)は病態進行が急激であることから、生体の毒素曝露状況の早期判定を可能とする検査法の開発が待望されている。報告者らは幼若動物(ラット、マウス)で毒素(Stx)曝露早期に尿排泄量の増加することを見いだし、この多尿の原因が尿細管、集合管に分布する水再吸収機構(アクアポリン、AQP)のStxによる障害であることを初めて明らかにした(業績1)。これらの知見から患者尿中のAQP抗体反応性物質検査がHUS発症の早期予知に有用であると考え、臨床現場で簡便に利用しできる測定法として免疫クロマト法の開発を目指した。水チャンネルAQP2の合成C末端15残基ペプチドを用いて免疫したウサギから得た抗AQP2ポリクローナル抗体と、Balb/cマウス脾内に免疫し、この脾細胞を常法に従いミエローマ細胞と融合・選択した抗体産生株より得た単クローン抗体とを組み合わせ、免疫クロマト用展開支持体としてニトロセルロース膜を用い金コロイド標識anti-AQP2モノクローナル抗体と検体混合液を免疫クロマト用試験片の試料吸収部位に添付し展開する試験片を作製した。その結果、anti-AQP2ポリクローナル抗体を塗布した部位とanti-AQP2モノクローナル抗体を塗布した部位に金コロイドのバンドが認められ、尿中のAQP2を免疫クロマト法により検出できることを確認した。今回の試作試験片は、重度の腎障害が起きた時期の尿中AQP2を検出することが可能であったが、HUS患者の病態進行の指標となりうるのかさらに検討中である。
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