研究概要 |
今回,がんを告知できない家族に研究者自身が現象学的態度(方法論)に基づく介入をこころみた2事例の結果を報告する。(現在データを整理できているもの) 研究者は現象学的態度をみにつけるため、故早坂泰次郎の主宰するIPR研究会によるセミナーに参加するとともに、現象学研究会に参加し,「純粋直観」についての理解を深めるとともに、身につける努力を行った。 【研究結果】1回の面接時間は約30分程度であった。<事例A>患者(65歳女性)は肝臓癌、胆管細胞癌、子宮癌。夫の強い希望にて医師は「肝臓の炎症」と説明していた。黄疸が強く毎日発熱の見られる患者に毎日面会に来ていた。しかし患者の側での夫の表情はいつ見てもそわそわしており、患者としっかり目を合わせようとしない態度がであった。<事例B>患者(65歳女性)は肝硬変,肝癌。夫の強い希望にて本人には肝硬変と説明。痛みと高熱が続き,夫は毎日のように面会に来きていた。しかし,患者の前に立つ夫の姿は、必要な介護(着替えの用意・片付け、食事介護、環境整備等)のみ行い、そういった介護が終わるとすぐその場を離れ、その他は一人でロビーにいることが多かった。 研究者が面接をはじめたことによって、未告知状况下におけるがん患者を持つ家族は,患者の世界にまき込まれすぎており,患者に本当のかかわりができずにいる状況が明らかになった。面接の始めの段階では家族はその状況が当然で仕方のないこととあきらめていた。しかし,エポケーの態度で見、そのとき研究者が知覚した家族の状況をそのまま返すという面接の中で,家族は今の状況が患者にとっても家族自身にとっても不自由であることに気づきはじめ、自分らしい(自由な)態度で患者にかかわりを始める姿(変容)が見られた。 【考察】ターミナルケアでは、存在として苦悩する患者やその家族の世界へのアプローチが重要であり,その「看護介入の鍵」は看護者が患者とその家族に内在する可能性を信じ,彼ら自身がその力に気づいてい一歩を踏み出す力を導き出すことである。今回,未告知状況下におけるがん患者の家族へ「現象学的態度もとづくアプローチ」をこころみ、家族が患者とのかかわりをあきらめ、不自由であった世界から、自分らしく患者にかかわり始めるという一歩前進の変容がみられたことは、看護にとって意味深い結果と思われる。今後さらに面接参与者数を増やすと共に,面接の結果をV.E.フランクルやブーバーの視点から考察を深めていきたいと考えている。
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