聴覚障害児に対してどのように文字言語の習得のための指導が行われているのかについて、音声言語の使用を前提としないで手話を用いた教育を中心に行っているスウェーデンにおいて実地調査を行った。前年度にわが国で検討した結果からは、聴覚障害児においても文字言語の習得には音韻意識が関連していることが示されたが、音声声語の使用を前提としないでまず手話を獲得させ、そこから書記言語の習得につなげていく教育方法における考え方や評価に関する資料を得ることをめざした。 同国においては、就学前から高等学校段階まで、聾学校や高等学校、小学校を訪問するとともに、教育センターの担当者、ストックホルム大学、エレブロ大学の研究者と面談、資料収集を行った。その結果、聾学校でも就学前(グレード・ゼロ)段階から手話の使用に併せて文字の習得を積極的に実施する方法がとられていることが明らかとなった。その根底には、手話を基盤として、視覚的に書記言語との対応関係を習得させるという考えがあった。そのため早期からビデオ教材や絵本、テキストのプリントやOHPが多用されていた。ただ、その方法が読み書き能力の獲得にどうつながっているのかについての統計的な資料はほとんどなく、子どもの読み書き能力をどう測定、評価するかという課題があることが示唆された。それについての検討が今後大学を中心として進められていく方向にあることも明らかとなった。また、聾学校の修業年数は10年と通常学校よりも1年長い、成績評価の制度がわが国と大きく異なるなど、教育環境の違いも大きいことが伺えた。今後、文字言語習得の測定、評価の方法と、そこに関係する条件についての検討が必要であることが示唆された。
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