平成12年度の文献調査の結果は、以下のとおりである。 明治8年から12年までに刊行された読本や文法・漢文・綴方・習字関係の文献調査、及びそれらの分析・検討を行った。主たる文献は、以下のものであった。 【明治8年刊】『書読日用文』(文部省編)、『作文捷径』(西野古海編) 【明治9年刊】『作文方法 上下』(林多一郎・中島操編)、『作文のこころへ』(岡松甍谷) 【明治10年刊】『京都府下小学生徒 秀華文鈔』(水原幸次郎編)、『初学作文法』(羽山尚徳)、『上等作文軌範』(高橋敬十郎) 【明治11年刊】『頭書類語 小学作文五百題 一・二・三・四』(安井乙熊編)、『下等小学 公私作文階梯』(藤田守編)、『小学必需 作文一助』(横山莠) 【明治12年刊】『小学文林 上下』(早川光蔵編)、『小学記事文例』(岩崎恒義) 長編が多く、解読という基礎作業に時間がかかり、日記文の指導に直接つながるような記述内容を見つけるにいたっていない。明治8年から12年までは、日記文の指導論を生むまでの胎動的段階として位置付けられる。明治元年から7年までの傾向は続いており、漢作文中心の定義文、論説文などの叙事的文体による文章が尊重されている。前年度報告書でも触れたように、「例」と「理」の意識が、書かれた内容を支えている。このような基本的文章制作態度が重んじられていたことは、自己の記録としての日記を書くという態度に通じるものであろう。
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