原子力システムにおける核反応現象と宇宙における核反応現象である元素合成過程との比較を、核統計的平衡の概念を用いて行なう研究の第1段階を行った。ここで核統計的平衡状態とは、光子が豊富に存在するある一定の温度の環境下で、Z個の陽子とN個の中性子がバラバラに存在している状態と、それらが結合して質量数(A=Z十N)の原子核として存在する状態がバランスしている状態のことである。この核的統計平衡の概念を用いると宇宙元素合成過程が分類できることが知られている。この概念を原子力システムにも適用することが本研究の新しい試みである。 そのためにまず、核統計的平衡状態における核種分布の計算を行った。計算には水素からウランまでの1839核種を対象とし、この平衡状態における3つのパラメーターである核子数と光子数比(φ=Nn/Nγ)、温度(T)、初期の陽子数と中性子数比(Yp/Yn)を変化させた。ここで、この平衡状態では核反応断面積には依存しないことが特徴である。 その結果、φ=10^3、T=5×10^<6^O> K、Yp/Yn=0.5の平衡状態での核種分布が、高速増殖炉内での核分裂生成物の生成/変換平衡状態での分布と比較的近いことが分かった。この核分裂生成物の平衡分布は、関連する以前の研究で1群近似により求めたものである。特に核分裂生成物分布に存在するN=50の中性子魔法数おける強いピークと、Z=50の陽子魔法数における弱いピークを核統計的平衡分布でも再現できた。しかし、核分裂生成物のN=82の中性子魔法数の強いピークは、再現できなかった。またこの核分裂生成物の分布は、宇宙元素合成過程の1つであるs-過程生成物の分布とも近いものであることが我々の以前の研究で分かっており、核統計的平衡分布は原子力システムと宇宙元素合成の両方にとって有用な概念であることが分かった。
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