本研究では、有害な金属・半金属類が土壌中を移動する際に重要なイオン交換平衡と溶解・沈殿平衡の物質移動モデルの構築を目的とした。平成12年度は特に、土壌環境基準が設定されているものや水性生物に対する毒性が高い金属・半金属類の中から、土壌間隙水中でカチオンになりやすいPb、Cd、Cu、Zn、Niの5種の有害金属・半金属類カチオンを対象に、全国8ヶ所から採取したイオン交換容量が大きく異なる土壌中での挙動を解析した。 まず、イオン交換平衡について、土壌の種類や土壌溶出物、土壌間隙水中pHの影響を定量的に解析する多成分系イオン交換等温式を検討した。その結果、8種の土壌すべてについて、イオン交換等温線か低濃度域では両対数で直線近似でき、その直線の傾きαが土壌の種類によらず有害カチオンの種類ごとにほぼ一定となることを明らかにした。また、各有害アニオンのイオン交換量は、Mg^<2+>やCa^<2+>が土壌中に高濃度に共存してもほとんど低下しないが、Al^<3+>が多量に溶出する土壌ではAl^<3+>のイオン交換が競争的に進行するため大きく低下することがわかった。また、pHが低下してH^+が多量に存在する条件下でもイオン交換量が低下することが確認された。これに対し、Al^<3+>およびH^+などの競争的な影響を定量的に考慮した多成分系イオン交換等温式を提案し、用いた5種の有害カチオンと8種の土壌について適用できることを実証した。 また、物質移動モデルについては、任意のpH、任意の濃度でのイオン交換平衡および溶解平衡を考慮した平衡モデル式を提案し、回分型の均一平衡土壌について検証実験を行った結果、1種の土壌中のPbの分配量がうまく表せることが確かめられたので、今後さらに、流通型の土壌カラムなどでも各有害カチオン、各土壌についてデータを重ね、信頼性の高い移動モデルを構築していくこととした。
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