ファージディスプレイ法では、ターゲットを固定化しこれに結合するファージを選択するバイオパニングという操作が重要である。しかしターゲットが本研究で目的としたゲルマニウムオキソ酸などの場合には、ターゲットの修飾や固定化は困難である。そこで本年度は、固定化できない標的物質に対するバイオパニング法、すなわち無担体バイオパニング法の構築を試みた。無担体バイオパニングに用いるファージライブラリーとして、(1)M13ファージのpIIIコートタンパク質のN-末端近傍にファクターXaの切断部位を導入、ここが切断された場合には、再びN-末端と同様な配列が現れるようにし、(2)本来のN-端とプロテアーゼ認識部位との間にランダムペプチドを挿入したものを用いた。トリプシンなどのプロテアーゼにより切断されるランダムペプチドのうち、標的物質との結合により切断されにくくなるものがあれば、これはプロテアーゼ処理後も感染能を維持できるファージ上に呈示されているはずである。一方、このようにターゲット依存的にプロテアーゼ耐性になったペプチドは、ターゲットを加えない状態でプロテアーゼ処理することにより切断され、ファージは感染能を失う。この2回のプロテアーゼ処理をしたファージ群の中には、ターゲット非依存的にプロテアーゼ耐性をもつペプチドを呈示するものが存在するが、これをE.coliのLPSなどを用いて除去する。次に残ったファージをファクターXaで処理することにより、ターゲットと結合能を有するファージの感染能を復活できる。本年度は不飽和脂肪酸をターゲットとした無担体バイオパニングを行い、本法を行う上での改善点などを明らかにした。
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