研究概要 |
オルソ酸は、エステル加水分解の反応中間体として知られている短寿命活性種である。加水分解酵素がオルソ酸様遷移状態の形成を触媒していることや、テトロドトキシンのナトリウムチャンネル特異的遮断活性にはオルソ酸構造が必須であるなど、生命現象に密着した官能基の一つとして重要な役割を担っている。安定に取り扱うことができるオルソ酸を提供できれば、オルソ酸の関与する生命現象の解明に寄与できると期待されるが、基礎となる合成研究の遅れから進展をみないままとなっていた。本研究は、オルソ酸構造が篭型構造としてテトロドトキシンに安定に保持されていることに着目し、1)篭型オルソ酸合成経路の確立と、2)チャンネル阻害活性や新規カルボン酸等価体としての薬理活用の探索を目的とし、平成12年度、篭状オルソ酸形成に必要な、シクロヘキサン環上の1,3,5-トリアキシャル官能基の立体制御法の確立にむけた研究を進めた。キナ酸(1,3,4,5-テトラヒドロキシ-1-シクロヘキサンカルボン酸)を出発原料とし、その1,3,5位の官能基変換を計画した。水酸基ラジカル反応による橋頭位4級炭素化による1位水酸基への酢酸等価ユニットの導入、ビシクロエノールエーテル化により3位、5位水酸基の区別、アリリックストレイン導入(4位水酸基のオレフィン化)によるトリアキシャル不安定構造の安定化をへて、目的とするトリアキシャル配置に立体制御された目的物を合成できた。現在保護基の除去による、初の安定オルソ酸形成を試みている。さらに、オルソ酸安定化の要因の一つと考えられる両イオン型構造の寄与の解明にむけて、TTXの塩基部と類似の構造を持つピリミジンカルボン酸型天然物、マンザシジン類を全合成すると共に、その構造特性を明らかにした。
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