真核細胞のゲノムDNAは、塩基性蛋白質ヒストンと結合して核クロマチンの基本構造を形成するが、生理的条件下で、正に荷電したヒストン蛋白質が負に荷電したDNAと適切に結合するには、ヒストンの荷電が中和される必要がある。コアヒストンについては、ヒストンシャペロンと呼ばれる酸性蛋白質が結合し、これによってヌクレオソーム形成が制御さることが示されている。しかしながら、リンカーヒストンについては、これまでにシャペロンの報告はなく、リンカーヒストンの正の荷電がどのように中和されているか、また、DNAへのリンカーヒストンの結合がどのように制御されているかについては、全く分かっていない。本研究では、コアヒストンのシャペロンが既に同定されているツメガエル卵をもちいてリンカーヒストンH1Xの結合成分を検索した。ツメガエル卵の超遠心上清を、3種類の生理的条件下のカラムクロマトグラフィーにより分画し、H1X複合体の単離を進めたところ、これまでコアヒストンH2A、H2Bのシャペロンとして記載されてきたNAP-1がH1X結合蛋白質の主要成分であることが判明した。H1XとNAP-1との複合体形成は、抗NAP-1抗体によってH1Xが共沈することによっても確認された。さらに、ヌクレオソーム2量体にリンカーヒストンを加える再構成系を用いた解析では、フリーのH1Xではすぐにヌクレオソーム2量体が凝集してしまうのに対し、XNAP-1/H1X複合体では、ヌクレオソーム2量体の凝集を引き起こすことなく、安定したH1Xの結合がもたらされた。これらの結果は、XNAP-1がツメガエル卵におけるリンカーヒストンシャペロンとして機能することを示している。
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