近年、タンパク質合成阻害剤の局所的投与等の手法により、シナプス可塑性が発現されるためにシナプス後部や樹状突起での局所的タンパク質合成が必要であることが明らかとなってきた。次のステップは、いつ、どこで、どのようなタンパク質が、どのような神経活動により合成されるのかを解析することであるが、このためには「生細胞中で局所的タンパク質合成を可視化する実験系」が不可欠である。しかし現時点ではこのような実験系は皆無であるため、本研究代表者は実験系の確立から着手することにした。 シナプス可塑性発現における局所的タンパク質合成の重要性を考え、シナプス局在化mRNAの探索を行ってきた。小脳シナプトソーム由来のmRNAを100種類クローニングしたところ、そのうち10数種類に翻訳制御配列であるcytoplasmic polyadenylation element(CPE)に似た配列が認められた。実際にこれらのmRNAが小脳プルキンエ細胞や大脳皮質錐体細胞の樹状突起に局在化しているかどうかを小脳及び大脳の凍結切片を用いin situ hybridization法により検討した。その結果、CPERsの一つが小脳の一部のプルキンエ細胞において樹状突起にも局在化していることが判明した。また、大脳皮質においては領域特異的に内錐体細胞の樹状突起に局在化が認められた。このようなmRNAの局在化パターンは、mRNAの局在化及び翻訳制御には神経組織の3次元構築が大きな影響を与えることを示しており、当初、実験系として考えていた小脳の初代分散培養は系として不適切であることが判明した。現在、小脳あるいは大脳皮質切片で、緑色蛍光タンパク質をコードする遺伝子の下流にCPERsの3'UTRをつないだものを発現させることで、局所的タンパク質合成を蛍光で観察することを試みている。
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