機能性タンパクを遺伝子を介さずに直接細胞に取り込ませ、細胞内で機能させる。これを実現するものがDowdyらのグループによって報告された、目的タンパクに11アミノ酸によって形成されるTATペプチドを付加したTAT融合タンパクである。 本研究ではこの方法を中枢神経細胞に応用するため、まずラット由来の初代培養中枢神経細胞へのTAT融合タンパクの取り込みをTAT融合GFP(green fluorescent protein)を用いて確認した。この取り込みは、TAT融合GFPの濃度に依存し、TATを付加しないGFPでは起こらなかった。さらに、培養液の組成によって取り込みの効率が著しく変化することが見出された。 続いて神経突起伸長を促進するタンパク、GAP-43(growth associate protein-43)をTATペプチドと融合させたタンパクを作製した。このTAT融合GAP-43は、培養液中に投与されると、濃度依存的に細胞内に取り込まれ、本来のGAP-43と同じく細胞膜部分に分布することが、免疫染色によって確認できた。さらにこのTAT融合GAP-43を与えた細胞の神経突起伸長が、対照群とした、TATペプチドと融合していないGAP-43を与えたもの、何も与えないもの、に比べて有意に促進されていることを確認した。この促進効果は投与後24時間という早期で既に現れていた。 以上のように、TAT融合タンパクは神経細胞にその機能を導入することが出来ることが確認された。さらにTAT融合GAP-43は中枢神経細胞の突起伸長に促進作用を持つことが示された。この作用は導入早期から現れており、これはこの直接タンパク導入法が、従来より広く用いられる、遺伝子を介した導入法に対する大きな優位点を示している。これらから今回作製したTAT融合GAP-43は、現時点では治療が困難な損傷した中枢神経軸索を再伸長させる治療に応用しうるマテリアルであるといえる。
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