ポリL-乳酸(PLLA)とポリD-乳酸(PDLA)を適当な有機溶媒中で混合すると、ラセミ結晶(ステレオコンプレックス)を形成することが知られている。本研究では、PLLAならびにPDLAの溶液に基板を交互に浸した際の、基板上での逐次的なラセミ結晶形成挙動について定量的に解析した。 PLLA、PDLAは脱水重縮合により合成した。基板に9-MHzの水晶発振子を用い、所定濃度に調製したPLLAおよびPDLA溶液に浸し洗浄した後、振動数変化(ΔF)を測定し、薄膜形成量(Δm)とした。 PLLAとPDLAのアセトニトリル溶液に基板を交互に浸すことで、逐次的にポリ乳酸が積層できることを明らかにした。水晶発振子を基板に用いることで積層過程を定量的に解析した結果、両ポリ乳酸が1:1の比率で逐次的に積層され、ラセミ結晶の化学量論比とも一致することが分かった。単独浸漬の場合、最初の物理吸着のみが起こり、その後の逐次的な積層は観察されなかった。また、積層ステップを増やすことにより、指数関数的に積層量が増加することが分かった。得られた薄膜の示差走査熱量分析により、得られた薄膜は230℃に融点を持ち、ラセミ結晶の形成を支持した。ポリ乳酸の濃度あるいは浸漬時間を増加させることにより積層量が増加し、また積層温度を上昇させることで積層量が減少することが明らかになった。以上より、ポリ乳酸のラセミ結晶形成を駆動力として、ポリ乳酸超薄膜が調製できることが明らかになった。
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