研究課題
移植心を持つ患者の麻酔管理についてまず海外のいくつかの施設に問い合わせを行ったところ特にそれについての特別なマニュアルを有している施設はなく、その麻酔管理について特殊な配慮が必要とはされていない事が明らかとなった。もしドナー心の機能が悪ければ移植に用いられることはない。したがって移植された心臓はその機能は良好であり、麻酔管理の上で大きな問題とはならないとするのが従来の考え方であった。これは国内外のいくつかの著名な麻酔学の教科書に記載されていることであり、議論の余地はないように思われた。しかしながら、本研究を進めるにつれ、その考え方が必ずしも正しくない事がわかってきた。まず、移植心の最大の特徴は神経支配を持たないいわゆる"除神経心"であることとされていた。したがって心臓に直接的な作用する薬剤の作用は温存されるが、間接的に作用する薬剤はその作用を失う。これは麻酔管理上重要である。ところが最近の研究では移植後に年月の経過とともに神経の再生が起こること、それは多くの場合交感神経が副交感神経より先行して起こることが明らかとなった。これは移植心を持つ患者の麻酔管理では移植されてからの期間により薬剤の反応性が異なる可能性があることを考慮しなければならないといえる。さらに移植からの時間経過にともない慢性拒絶反応が例外なく進行していることも見逃せない。これは時間経過とともに冠動脈の狭小化および心機能低下を招くもので、厄介なことに患者自身の自覚症状に乏しい。したがって心機能が術前に充分に評価されていないと麻酔中に予期せぬ循環虚脱や不整脈の発生に難渋することも想像に難くない。術前に患者の移植後のフォローを行っている循環器内科医との十分な情報交換が極めて重要であるといえる。
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