研究概要 |
鉄系高温超伝導体において化学的元素置換が超伝導特性に及ぼす影響を明らかにするため、サマリウム系鉄オキシニクタイド化合物(SmFeAsO)の各元素サイトをそれぞれY,F,Mn/Ni,P/Sbで元素置換をした種々の試料を合成した。試料の合成は低温における1ステップ熱処理法で行った。合成した高純度試料について、粉末X線回折による相同定、電子顕微鏡による微細組織観察、高磁界輸送測定、比熱測定、ホール係数測定、及び熱起電力測定を行った。 フッ素ドープSmFeAsO試料においては最大で57.8ケルビンの超伝導転移温度と低温で300テスラ(外挿値)を上回る上部臨界磁場が得られた。伝導層(FeAs層)への元素ドーピングは電荷供給層(SmO層)へのドーピングと比較して転移温度と上部臨界磁場を大幅に抑制することがわかった。また、磁化測定においては、強い粒内磁束ピンニングに由来する大きな磁化ヒステリシスループを示し、ヒステリシスループから算出した臨界電流密度もキャリアドーピング状態に大きく依存することがわかった。熱起電力とホール係数の測定からは、マルチバンド伝導体である同系において常伝導状態における伝導は主に電子がキャリアとして寄与していることが示唆された。 一方、残留磁化の最大印可磁場依存性の測定においては、粒間、及び粒内磁化に由来する二種のピークが観測され、同系多結晶試料における電磁的グラニュリティーを確認した。また、フッ素がアンダードープ状態にある試料においては最適ドープ状態にある試料と比較して粒間臨界電流密度が1桁以上高くなることを見いだした。そのほか、次年度に向けての予察的検討として、フッ素がオーバー状態にある試料や熱処理条件を系統的に変化させた試料の合成を試みた。
|