1.フックス角膜内皮ジストロフィに関する研究 フックス角膜内皮ジストロフィ(Fuchs Endothelial Corneal Dystrophy:FECD)患者の角膜内皮細胞および正常ヒト角膜内皮細胞(Human Corneal Endothelial Cells:HCEC)にSV40/hTERT遺伝子導入を行ない不死化細胞を樹立した(FECDi3株、HCECi3株)。これらの細胞株を用いてFECD角膜内皮細胞のin vitroでの評価実験系の確立を試みた。FECDにおける細胞外基質(ECM)のmRNAレベルでの発現をリアルタイムPCRで評価したところ、FEcDiではHCECiに比べて1型コラーゲン、IV型コラーゲン、フィプロネクチンのmRNAの発現が有意に上昇しており(p〈0.05)、上皮間葉移行に関連する転写因子であるZEB2の発現も上昇していた(p〈0.01)。不死化細胞をトランスウェル上で2週間培養した組織では、FECDiではHCECiに比べてECMの蓄積が有意に増加していることがHE染色および免疫染色により示された。これらはFFCD患者の特徴として報告されている所見と一致しており、本研究で樹立した不死化細胞株はFECDに対する薬剤開発等の研究に応用できると考えられた。 2.角膜実質におけるケラタン硫酸糖鎖の合成に関する研究 ケラタン硫酸糖鎖の硫酸転移酵素であるChst1、Chst5の欠損マウス及びChst1/Chst5二重欠損マウスを作成し、角膜厚の変化を調べた。Chst1欠損マウスの角膜厚は野生型マウスと差が見られず、Chst1/Chst5二重欠損マウスでは減少していたものの、角膜が薄いことが既に知られているChst5欠損マウスとの差は見られなかったことから、Chst1によって触媒される硫酸化の有無は角膜厚に影響しないことがわかった。またこれらのマウスの角膜からタンパク質抽出液を調製し、その中に含まれるケラタン硫酸糖鎖の鎖長をイムノブロット法で調べたところ、Chst5欠損マウス及びChst1/Chst5二重欠損マウスの角膜では野生型のものよりも短くなっていた。この結果はケラタン硫酸糖鎖が角膜細胞外マトリックス中のコラーゲン線維間の距離を調節しているとする仮説を支持するものであり、糖鎖長の調節による角膜のリモデリングの可能性を示唆するものであった。
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