研究課題/領域番号 |
12F02004
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
荒井 隆行 上智大学, 理工学部, 教授
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研究分担者 |
SONU Mee 上智大学, 理工学部, 外国人特別研究員
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キーワード | 時間構造知覚 / 促音 / 長母音 / 第二言語習得 / 聴知覚特性 / ラウドネス / 音韻時間長 / 学習メカニズム |
研究概要 |
本研究の目的は、日本語を母語とせず、かつ日本語を第二言語として学ぶ学習者(以下、学習者)について日本語の音声タイミング制御の知覚特性を明らかにすることである。このように、日本語学習者の音声タイミング制御の知覚特性を解明することは、日本語音声学習支援のシステムを構築する際の基礎データの提供につながると考える。さらに、人間の聴知覚特性を考慮した音声タイミング特性を把握することで、言語学習における学習メカニズムの解明にもつながると考える。本研究では、主に時間長知覚に影響を与える要因を二つの側面から考え、実験を行った。1)時間長知覚と発話速度の影響に関する実験:この実験では、日本語母語話者と韓国語を母語とする日本語学習者が日本語の長短音素をどのように知覚しているのか、また、発話速度が変動することで、知覚上の範疇境界がどのように変化するかについて調査した。調査の結果、次のことが分かった。まず、日本語母語話者は発話速度が変動しても音素に前後した文脈だけで長短音素を識別することができた。一方、日本語学習者の場合、全体的には発話速度の変動に対し母語話者と同様な反応を示すものの、長短音素の判断が曖昧で範疇化の程度を表す値が日本語母語話者より低かった。このように、日本語学習者は時間長の判断ができたとしてもその判断が範疇的ではないことから、長短音素によって構成される単語においてその前後の音素の組み合わせにより知覚判断の難しさが生じると推測された。2)感覚量としての時間長の観点から、長短音素を含む単語の聞き取りの実験と難易度の分析:韓国語母語話者による促音、非促音の聴取実験のデータを分析した。その結果、日本語学習者は非促音を促音として判断する傾向が強く現れた。このような誤判断は知覚時に時間長に対する重み付けが日本語母語話者と韓国語母語話者とで異なるためであると考えた。この時間長に対する重み付けの判断の差をより人間の実感覚に近いラウドネスの観点から分析した。その結果、先行母音のラウドネスが相対的に小さければ小さいほど、非促音を促音として誤判断する傾向が見られた。今後、韓国語の子音判断特性に先行母音のラウドネスがどのように関与しているかより詳しく調査を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、人間の聴知覚特性に着目し、非母語話者による日本語音声の時間長の知覚特性を把握することが目的である。特に、本研究では音の物理的な時間長だけではなく、感覚的な音の大きさを考慮し、日本語の聴取学習の難易度の解明を試みた。その結果、学習者は母語話者とは異なる手がかりを用いることが確認され、ラウドネスがその解明の一変数になり得る可能性が示唆された。この結果は従来の学習者による日本語の誤用の把握に留まらず、時間長に関する知覚特性の解明にもつながるものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、日本語学習者による時間構造の知覚特性を把握するため、日本語母語話者および日本語学習者を対象に知覚実験を実施した。現在まで実施している結果から、時間構造知覚の特徴を把握するためにはラウドネスを変数とした場合、より客観的に説明できると考えられる。特に、韓国語母語話者が日本語の促音を判断する際に先行母音のラウドネスが影響していることが分かった。今までの結果を踏まえ、今後は、時間長知覚に影響を与えるとされているインテンシティーを変数とし、知覚範疇化調査を行う予定である。また、時間構造知覚に関わるもう一つの要因として挙げられた発話速度の影響について、より具体的に調査を進める予定である。発話速度の影響については二つの可能性が考えられる。1)学習者の母語からの時間制御特性、2)母語に依らない人間の時間長に対する感覚。本研究の目的は非母語話者が日本語を学習する際の知覚特性を把握することを目的としているため、1)学習者の母語との関連性についてより具体的に調査を進めることにした。特に、韓国語に存在する子音の対立と日本語の促音と非促音の対立の関係の知覚的類似性をより具体的に調査することで、韓国語母語話者による促音と非促音の知覚判断の特性を把握することができると考える。
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